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札幌西高校文芸部活動日誌

西高文芸部員が気のみ気のまま付ける活動記録。個性溢れる文章で日々の活動を記録していければいいのだが、果たしていつまで続くのやら……

   
カテゴリー「リレー」の記事一覧
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リレー小説「Library」4<倉橋涼音>

 放課後、私は走っていた。普段なら誰も近づかない体育館裏に向かって。するとそこに、広輝の姿が見えた。毎日会っているというのに、それだけのことでいつもうれしくなってしまう。
「広輝!」
 と、呼ぼうとした時のことだった。
「先輩、好きです」
 そう言ったのは広輝と同じ、図書局の女の子。
「……俺も、好きだよ」
 そう答えたのは広輝。嘘……嘘でしょ? 広輝に好きな子がいたなんて、知らなかった。知りたくなかった。私はすぐにその場から逃げ出そうとした。幸せそうな二人を見ているのがつらかったから。でも、そんな思いとは裏腹に、私は金縛りにあったかのように動けなくなっていた。いやだ、もう何も見たくない、何も知りたくない。今にも涙があふれ出してきそうだ。そんな中、広輝はその子を抱きしめた。いやだいやだいやだ。
「広輝っ!!」
 

 あ、あれ? ここは……私の部屋? 私は今までのが全部夢だったのだと気付くまでに、少し時間がかかった。夢でよかった、と安心したのも束の間。枕元の目覚まし時計が目に入る。時刻は8時5分。やばい、遅刻する。私は焦って学校へ行く支度を始める。
「お母さん、なんで起こしてくれなかったのよ~!」
「何度も起こしたわよ。あんたが起きなかったんじゃない」
 今こんなことを言っても誰も信じてくれないかもしれないが、私は寝起きはいいほうだ。寝坊なんて滅多にしない。じゃあなぜ今日は寝坊したのか。それは広輝のことが気になって、なかなか寝付けなかったからだ。あんな夢を見てしまったのもそう、全部広輝のことが気になるから。一昨日からずっと、そのことばかりが私の脳内を支配している。
 

 そんなことを考えながら家を出ると、ちょうど隣の家から出てきた広輝と目が合う。なんというタイミング。いつもだったら広輝に会えてすごくうれしいはずなのに、今はあまりうれしくない。いつも通りじゃいられなくなってしまいそうだから。意識しすぎだな、と自分でも思う。でもあんな夢を見た後で、意識せずにいられるわけがない。
「……おはよ、七海」
 
「お、おはよ……」
 気まずい沈黙が流れる。どうしよう、何か言わなきゃ。いつも通り、いつも通り……。そう思えば思うほど、どうすればいいのかわからなくなってしまう。
「七海、一昨日のことだけど」
 先に口を開いたのは広輝だった。一昨日のこと。その言葉を聞いただけで、私は息が詰まりそうになった。きっと、いや絶対、告白の時のことだ。そのことはメールで一度聞かされた。告白した女の子のことや、その子に考えさせてくれって言ったこと。でも私はその時そのことには触れなかったし、広輝もそれ以上は何も言ってこなかった。それなのに今、このタイミングでその話をしてくるなんて。聞きたくない、何も。
「あ、私、急がなきゃ。遅刻しちゃう。広輝も急いだほうがいいよ!」
 そう言い、私は走り出す。もちろん一昨日の話は気にならないわけではないのだけれど、それ以上に聞くのが怖かった。もし広輝と麻衣ちゃんが両想いだったら。考えるだけで怖いし、つらい。広輝は考えさせてくれって言ったらしいから、もうすでに付き合っているということはないと思う。でもこれからどうなるかはわからない。もし今朝の夢が現実になってしまったら。そんなことを考えると今にも涙があふれ出しそうになって、私は必死にそれをこらえながら学校へと走った。

 

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・・・あとがき

リレー小説『Library』3 <秋永准>

 夜の帳はすっかり下ろされ、二階の自分の部屋の窓越しに見る夏の夜空にはいくらか星が浮かんでいた。
 その夜空の下、向かいに広輝の家が見える。
 星が綺麗、と素直に思えない自分にちょっとだけいら立って、握っているシャーペンに力が入る。広輝が気になって外を見たわけじゃなくて、ただ換気をするために窓を開けただけなのに、どうしてこんなにも気にかけてしまうのだろう。こんな、明白な答えを知っているのに自分に疑問を投げかける矛盾にまたいら立ちを感じる。
 結局のところ、私は広輝を意識しているのだ。
「もーっ、集中できないー!」
 誰に言うでもなく間抜けな声を上げて、シャーペンを机に放り、椅子に身体をあずけて頭をのけ反らせる。百八十度回転した自分の部屋は、やっぱり自分の部屋でしかない。課題から逃げるために無意味なことをやる癖がついてしまっているのだと実感する。少しは今日のうちにやっておこうと思ったけれど、やっぱり明日広輝に全部写させてもらおう。
 ボブカットの髪が床に向かって垂れ下がる抵抗がなんとなく心地よくて、しばらくそのままぼうっとしていると、ふいに昨日のことを思い出してしまった。
 夕日が射し、その場に流れる静謐な時間。
 ――胸の鼓動が速くなった。思い出すまいとすればするほど鮮明に頭の中に浮かんでくる景色。
 それは、昨日の放課後のことだ。
 
 
 
「せっ、先輩! その、えっと」
 放課後の数学の追試を終えて、広輝の姿をなんとなく探しながら昇降口に到着すると、こんな声が聞こえた。聞き流そうと思ったけれど、その声が直後に視界に入った広輝に対するものだと知り、どうしていいのか分からなくなった。声の主は一つ下の一年生。確か図書局の人だ。広輝も図書局に入っているから何度か見た記憶がある。
 ぼんやりとした嫌な感覚をおぼえながら、さり気なく近づくと広輝がこちらに気付いた。
「七海、ごめん先に帰っててもらえる?」
 いつもなら気に留めるものでもない言葉に、この日は違和感があった。
「う、うん……」
 図書局の一年生を横目に学校を出て、正門を抜けて、学校前の車道の信号で立ち止まったときに、先におぼえた嫌な感情が急激に輪郭を確かなものにしはじめた。あまり図書室に行かない私でも、今年に入って広輝は図書室であの一年生の子とよく話しているのは知っている。
 脈が速くなり、体温がわずかに上がるのを感じた。
 振り返り、学校を見やる。
 夕日に染まる白い校舎。茜色のフィルターがかかっただけで、そこにはいつもの風景があった……いや、
 来た道を走った。何もないに決まっているんだ。
 走って戻ってきた私を広輝が笑って、私もそれに苦笑いして、それで、それで、
「っ――」
 なんなんだ私、バカみたい。確かに勉強はできないんだけれど、要領も悪いんだけれど、そうじゃなくて、
 
 ――いない。
 昇降口に数分前までいた二人の姿がもうなかった。予感が現実のものになりつつあることに水の中にいるような息苦しさと恐怖を感じた。
 帰ったのじゃない。多分二人は……。
 学校を出て、校舎と体育館の間、普段なら誰も近づかない体育館裏に走った。こんなベタなことあるわけない、心の中で否定しながら。
 
 
 草が生い茂った体育館裏は、思いの外明るかった。息を切らしながらゆっくりと歩く。草が時折、脚にあたり気持ち悪い。辺りを見回しても人影は見当たらない。ほっと胸をなで下ろし、自分の想像力にあきれながら奥の体育館の角までついたときに、予感は間違っていなかったことを確信せざるをえなくなった。
 角を曲がった先に、二人がいた。
 それを確認するが早いか、
「先輩、好きです」
 なんてタイミングなんだ、と考えることもできなかった。ただ、うつむいた一年生がこちらに背を向けて肩を震わせていて、その向こうで広輝が黒ぶちの眼鏡の奥の目を見開いていて、私の頭の中はそんな映像がぐるぐるとループするだけで。
 何分そうしていたのかは分からないけれど、あるタイミングで広輝がこちらに気付いた。
「七海っ!」
 この声が聞こえたときにはもう走りだしていた。いい加減今日一日の授業で使った教科書類の重さに肩が痛くなりだしていたけれど、この瞬間だけは痛みを感じなかった。広輝が後ろから追いかけてきているかなんて分からない。とにかく走って、雑草を力いっぱい踏んで、正門を通って、赤に切り替わった直後の横断歩道を駆け抜けて、向こうから走ってきた自転車にぶつかりそうになって、それでも歩道を全力で走って、
「はぁっ……はぁっ……」
 ようやく立ち止まり、膝に手をついた場所は、広輝の家の前だった。ここまで走った自分に驚いた。もう脚が命令を聞いてくれない。わが家まであと数メートル。その手前の家の表札の文字を見て、ついに熱いものが胸の奥からあふれ出た。
 アスファルトに落ちたのは噴き出る汗だけじゃなかった。
 
 
 
「あーっ、もう!」
 ここでようやく回想を断ち切ることができた。いつの間にか今の自分も全身が汗だくで気持ち悪い。一階に下りてちょっと前に沸かしたばかりのお風呂に入った。ちょっと熱めのお湯が逆に夏場はリラックスできる。
 髪の先の水滴がお風呂のお湯に落ちた。波紋が広がり、やがて消える。
 
 ――昨日のちょうど今ごろ、広輝からメール来たんだっけ
 
「だから、もう、またそうやって思い出すー!」
 なんなんだ、私は。お風呂のお湯を両手ですくって顔にかけた。けれど一度思い出すとやっぱり止められない。
 『その、さっきはごめん。俺が謝ることじゃないのは分かっているんだけど、謝らせて。七海も見たと思うけど、一年生の竹中麻衣っていうんだ。あの子にはもう少し考えさせてくれって伝えておいた。』
 昨日広輝から来たメールはそんな文章だった。その後はいつものようなやり取りがあっただけで、麻衣ちゃんのことに触れることはなかった。
 この気持ちはどうすればいいんだ。
 よくわからないもどかしさから勢いでお風呂から上がり、髪も中途半端な乾きのまま冷蔵庫に向かい、コップ一杯の牛乳を一気に飲み干した。
 ほんと、どうしたらいいんだ。
 こんな時は寝るにかぎる。明日どうなるかなんて知らないし、どうすればいいのかも知らない。明日は明日の私がなんとかしてくれるに決まっている。今日やろうと思った課題だって明日、広輝のを写せばそれで済む。
 部屋に戻って電気を消してベッドに入り、おやすみなさい、と小さく呟いて目を閉じた。 
 隣の家の明かりが気になってなかなか寝付けなかった。

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・・・あとがき

りれしょ2 <高城>

 図書館を出て家路を行く。広輝が私の少し前を歩いて、私は斜め後ろから彼を眺めていた。今日の広輝は何だか上機嫌だ。少し視線を降ろすと、彼の太ももくらいの所をその手が行き来している。ブラブラと左側だけ。右側は鞄を背負っているため塞がっている。私は自由に動いている左手を見て、自分の右手をグー、パー、グー、パー忙しなく動かした。握るべきか、放置すべきか。手は、繋ぎたい。でも、残念ながら私と彼とは理由なく手を繋ぐような仲ではない。グー、パー、グー、パー……私の右手はその形を定めかねていた。
 と、突然彼の左手が動きを止めた。同時に、彼の歩みも止まる。私の目線も、彼の左手に集中していた。否、正確には左手に、ではない。その、上だ。広輝は自分の目の高さまでそっと左手を持ち上げていった。
「蝶だ」
 呟いたのは、私。
「うん、蝶だね」
 広輝もそれに相槌を打つ。
 昔は蝶もよく見掛けたものだったけれど、最近はその機会が減ってきている。多分、空き地や荒れ地がマンションに変わった所為。
 広輝の左手に止まった蝶は、黄色い羽を綺麗に二つ折にして身体を休めていた。パタリ、パタリと時折その羽が動く。ふと、小さい頃広輝と私で飼っていた揚羽蝶を思い出した。家が隣同士だった私達は、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。その遊びの中には、夏場の虫獲りも含まれていて、揚羽蝶はその時に獲ったものだった。
「懐かしいね」
 広輝が言う。「うん」と答える。広輝も、昔のことを思い出しているらしい。揚羽蝶は、当たり前だけど、もういない。あの頃の私達が一生懸命に世話をしていた蝶は、冬になる前に死んでしまった。
 ふわりと、目の前の黄色い影が動く。「あ」と思わず声を上げる。黄色いその蝶は、彼の左手を離れてふわりと空に舞い上がった。ヒラリ、ヒラリとその羽を風に踊らせて、蝶は再び自然の中へと戻っていった。
 広輝は何も無くなった左手を見詰めていた。
「紋黄蝶だったね」
「うん。紋黄蝶も、紋白蝶も……揚羽蝶も、見ないよね」
「うん」
 住宅街の静けさが妙に辺りに染み付いていた。ちょっとだけ、昔を思い出してらしくもなく二人の間に湿った空気が流れた。居たたまれなくなって、私は態と大きな声で言った。
「それよりさ、早く帰って課題見せてよ! 広輝の写そうと思ってたから私まだ何もやってないんだから!」
「え、いや。ちょっとくらい自分でやれよ! ……っとに。しゃーねーなぁ七海は。いっつもそれだ」
「何よぅ! 一年の頃、家庭科の実技は殆ど私がやってやったじゃない」
 会話が始まると、さっきまでのじめじめとした雰囲気は何処かにいってしまって、いつも通りの私達が其処にはいた。だけど、二人して各々の家に入るとき、一瞬だけ空を気にしてしまった私は、きっとかなり未練がましい女なのだ。蝶はいない。みんな、この町から離れていってしまった。もう、きっと彼等は戻って来ないのだろう。



 広輝は昨日、告白された。



 彼がどうするのか、私は知らない。蝶の行方も分からない。未来は分からない。明日も図書館で会って、一緒に帰るという日常を繰り返せるのか。私ははっきりと断定できない。昨日の告白事件が未来だった過去の私は、幼馴染みという関係に終わりが来るかもしれないなど、夢にも思わなかったのだから。
「またね」
「おう」
 そして、私達は互いに自分の家に帰ったのだった。

 

by.高城 月

 

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Library(仮)

久々に図書室に来た折、「ソクラテスの弁明」、なんて読む気のしない文庫本を手に取って、私は隣のテーブルを見つめていた。普段は一秒だって黙ってないお喋りカラスの癖に、今のあいつはページを捲る時以外はピクリとも動かない。なんだか趣味の悪いアクセントがついている黒縁の眼鏡が、このときばかりは彼を知的に魅せて、その横顔に私はまた見とれてしまう。

ほんとに、あいつは勿体無い。いつの間にか、それがあいつに対する口癖になっていたのであった。

何が何だかさっぱりだったけれど、ぱらぱらと「ソクラテスの弁明」を眺めた。全く持って面白くない。読むのを諦め、本棚に戻そうとすると、突然横から伸びてきた手にひょいと抜かれてしまった。驚いて横を向くと、そこにはあいつが立っていた。

「七海って、こんな本読むんだな」
「もう、びっくりした」

拗ねてそっぽを向くと、ほっぺを人差し指で突かれた。

「広輝、何してんの?」

恥ずかしくなって、私は思わず声を響かせてしまった。周りの目が一斉にこっちを見た。

「帰ろっか」

広輝は少し気まずそうな顔して、小声でそう言うと、出口のほうへ歩きだした。
私もその後をこそこそと続いて出て行った。




執筆、コダマ黎歩

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・・・補足

  

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