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札幌西高校文芸部活動日誌

西高文芸部員が気のみ気のまま付ける活動記録。個性溢れる文章で日々の活動を記録していければいいのだが、果たしていつまで続くのやら……

   

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リレー小説『Library』3 <秋永准>

 夜の帳はすっかり下ろされ、二階の自分の部屋の窓越しに見る夏の夜空にはいくらか星が浮かんでいた。
 その夜空の下、向かいに広輝の家が見える。
 星が綺麗、と素直に思えない自分にちょっとだけいら立って、握っているシャーペンに力が入る。広輝が気になって外を見たわけじゃなくて、ただ換気をするために窓を開けただけなのに、どうしてこんなにも気にかけてしまうのだろう。こんな、明白な答えを知っているのに自分に疑問を投げかける矛盾にまたいら立ちを感じる。
 結局のところ、私は広輝を意識しているのだ。
「もーっ、集中できないー!」
 誰に言うでもなく間抜けな声を上げて、シャーペンを机に放り、椅子に身体をあずけて頭をのけ反らせる。百八十度回転した自分の部屋は、やっぱり自分の部屋でしかない。課題から逃げるために無意味なことをやる癖がついてしまっているのだと実感する。少しは今日のうちにやっておこうと思ったけれど、やっぱり明日広輝に全部写させてもらおう。
 ボブカットの髪が床に向かって垂れ下がる抵抗がなんとなく心地よくて、しばらくそのままぼうっとしていると、ふいに昨日のことを思い出してしまった。
 夕日が射し、その場に流れる静謐な時間。
 ――胸の鼓動が速くなった。思い出すまいとすればするほど鮮明に頭の中に浮かんでくる景色。
 それは、昨日の放課後のことだ。
 
 
 
「せっ、先輩! その、えっと」
 放課後の数学の追試を終えて、広輝の姿をなんとなく探しながら昇降口に到着すると、こんな声が聞こえた。聞き流そうと思ったけれど、その声が直後に視界に入った広輝に対するものだと知り、どうしていいのか分からなくなった。声の主は一つ下の一年生。確か図書局の人だ。広輝も図書局に入っているから何度か見た記憶がある。
 ぼんやりとした嫌な感覚をおぼえながら、さり気なく近づくと広輝がこちらに気付いた。
「七海、ごめん先に帰っててもらえる?」
 いつもなら気に留めるものでもない言葉に、この日は違和感があった。
「う、うん……」
 図書局の一年生を横目に学校を出て、正門を抜けて、学校前の車道の信号で立ち止まったときに、先におぼえた嫌な感情が急激に輪郭を確かなものにしはじめた。あまり図書室に行かない私でも、今年に入って広輝は図書室であの一年生の子とよく話しているのは知っている。
 脈が速くなり、体温がわずかに上がるのを感じた。
 振り返り、学校を見やる。
 夕日に染まる白い校舎。茜色のフィルターがかかっただけで、そこにはいつもの風景があった……いや、
 来た道を走った。何もないに決まっているんだ。
 走って戻ってきた私を広輝が笑って、私もそれに苦笑いして、それで、それで、
「っ――」
 なんなんだ私、バカみたい。確かに勉強はできないんだけれど、要領も悪いんだけれど、そうじゃなくて、
 
 ――いない。
 昇降口に数分前までいた二人の姿がもうなかった。予感が現実のものになりつつあることに水の中にいるような息苦しさと恐怖を感じた。
 帰ったのじゃない。多分二人は……。
 学校を出て、校舎と体育館の間、普段なら誰も近づかない体育館裏に走った。こんなベタなことあるわけない、心の中で否定しながら。
 
 
 草が生い茂った体育館裏は、思いの外明るかった。息を切らしながらゆっくりと歩く。草が時折、脚にあたり気持ち悪い。辺りを見回しても人影は見当たらない。ほっと胸をなで下ろし、自分の想像力にあきれながら奥の体育館の角までついたときに、予感は間違っていなかったことを確信せざるをえなくなった。
 角を曲がった先に、二人がいた。
 それを確認するが早いか、
「先輩、好きです」
 なんてタイミングなんだ、と考えることもできなかった。ただ、うつむいた一年生がこちらに背を向けて肩を震わせていて、その向こうで広輝が黒ぶちの眼鏡の奥の目を見開いていて、私の頭の中はそんな映像がぐるぐるとループするだけで。
 何分そうしていたのかは分からないけれど、あるタイミングで広輝がこちらに気付いた。
「七海っ!」
 この声が聞こえたときにはもう走りだしていた。いい加減今日一日の授業で使った教科書類の重さに肩が痛くなりだしていたけれど、この瞬間だけは痛みを感じなかった。広輝が後ろから追いかけてきているかなんて分からない。とにかく走って、雑草を力いっぱい踏んで、正門を通って、赤に切り替わった直後の横断歩道を駆け抜けて、向こうから走ってきた自転車にぶつかりそうになって、それでも歩道を全力で走って、
「はぁっ……はぁっ……」
 ようやく立ち止まり、膝に手をついた場所は、広輝の家の前だった。ここまで走った自分に驚いた。もう脚が命令を聞いてくれない。わが家まであと数メートル。その手前の家の表札の文字を見て、ついに熱いものが胸の奥からあふれ出た。
 アスファルトに落ちたのは噴き出る汗だけじゃなかった。
 
 
 
「あーっ、もう!」
 ここでようやく回想を断ち切ることができた。いつの間にか今の自分も全身が汗だくで気持ち悪い。一階に下りてちょっと前に沸かしたばかりのお風呂に入った。ちょっと熱めのお湯が逆に夏場はリラックスできる。
 髪の先の水滴がお風呂のお湯に落ちた。波紋が広がり、やがて消える。
 
 ――昨日のちょうど今ごろ、広輝からメール来たんだっけ
 
「だから、もう、またそうやって思い出すー!」
 なんなんだ、私は。お風呂のお湯を両手ですくって顔にかけた。けれど一度思い出すとやっぱり止められない。
 『その、さっきはごめん。俺が謝ることじゃないのは分かっているんだけど、謝らせて。七海も見たと思うけど、一年生の竹中麻衣っていうんだ。あの子にはもう少し考えさせてくれって伝えておいた。』
 昨日広輝から来たメールはそんな文章だった。その後はいつものようなやり取りがあっただけで、麻衣ちゃんのことに触れることはなかった。
 この気持ちはどうすればいいんだ。
 よくわからないもどかしさから勢いでお風呂から上がり、髪も中途半端な乾きのまま冷蔵庫に向かい、コップ一杯の牛乳を一気に飲み干した。
 ほんと、どうしたらいいんだ。
 こんな時は寝るにかぎる。明日どうなるかなんて知らないし、どうすればいいのかも知らない。明日は明日の私がなんとかしてくれるに決まっている。今日やろうと思った課題だって明日、広輝のを写せばそれで済む。
 部屋に戻って電気を消してベッドに入り、おやすみなさい、と小さく呟いて目を閉じた。 
 隣の家の明かりが気になってなかなか寝付けなかった。

(以下、言い訳です)

話も完結していないのにいちいちあとがきをつけるっていうのもどうかと思うのですが、書かせて下さい。言い訳をしたいのです。
だってこれ、難しいんですよ。リレー小説。前の人の意図を読み取りながら、設定に矛盾が生じないように書くことがこんなにも大変だとは(前の人の意図は読めていない可能性大です)。僕、なめていました。このまま話が続いて、設定が増えて、最終回付近でまた僕に当番が回ってきたらどうなっちゃうんでしょうね。

僕の回では主人公の女の子がうだうだする話を書きました。個人的にはこういう空気が青春だよなあって思います。個人的に、なので他の人がどう思うかは知りません。ゴーマイウェイです。ちなみに僕は夏休みをだらだらした生活で消化しつつあるので、先の青春に当てはまらないこともないです。違うか。
この話の文章が相変わらず稚拙なのは僕のいつもの力量不足です。磨きをかけて、最終回付近では上達を見せつけるんだ……! 言わずもがなのことですが、フラグですよ。

それでは次に書く人ですが……誰がいいんだろう。早苗さんに頼みますか。いや、でもあの人に頼んだら僕の力量不足が更に浮き彫りに……!
うん。早苗さんあたりがいいかなあ、ぐらにとどめておきます。
他に書いてくれる方がいらっしゃいましたら、早苗さんに構わずどんどん書いて下さい。できれば最終回まで。

それでは、またっ。

(この記事はいつかまた更新されるかもしれません。その時は言い訳が増えたんだなと思って、できればそっとしておいて下さい。)

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No Title

読ませていただきました。なんだこれ素晴らしい。
部誌じゃなくて、ブログでこんなちゃんとしたコンテンツを始めてしまっていいんでしょうか。続きが楽しみすぎます。

三名とも、文体からプロットからキャラ作りまで、個性が出てて面白いですね。
前の人が作ってくれた話を繋ぎながら、何とかその中で自分の個性も出してやろうと考えてもがいて、うんうん言いながら書いて、しかもそれをまた次の誰かが拾って書いてくれる。前話までをよくよく読み込まなければ続きなんて書けなくて、だから自分がしたように、次の人もまた自分の話をこれでもかってくらい熟読してくれたのだなと思うとそれはとても嬉しかったり、でも自分みたいな中途半端な筆力で申し訳なかったり。

そういう独特の、リレーにしかない楽しみが、僕も好きでした。
続きを楽しみにしてます!
  • カモメ さん |
  • 2012/02/11 (11:13) |
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